現代のセンサー技術により、伝説的なライカM型フィルムカメラと同様のルックスのデジタルM型カメラが誕生しました。スリムかつスレンダーなフォルムの新しいライカM10は、レンジファインダーによる最高の写真撮影体験を実現する、ライカMシステムを象徴する1台です。ビジネスユニットフォト グローバルディレクターのStefan Daniel、プロジェクトリーダーのHenning Rafflenbeul、プロダクトマネージャーのJesko von OeynhausenとデザイナーのChristoph Gredlerに、ライカM10の開発ストーリーを聞きました。

© Sebastian Graf Leica M10

ライカM10は、M型フィルムカメラのフォルムの再現を求める写真家たちの願いを叶えたカメラです。長い間、ボディの薄型化は非常にハードルの高いことでした。実際、ライカM (Typ 240)ライカM9よりもさらにボディの厚みが増しましたね。今回、ライカM10のスリムなデザインはどのように実現できたのでしょうか?

© Sebastian Graf Leica M10

Henning RafflenbeulライカM (Typ 240)とは異なり、ライカM10の設計では、カメラ内部のサイズをM型フィルムカメラと同様にすることが至上命題でした。その一方で、Mシステムのフランジバック(レンズの取り付け面(フランジ面)から撮像素子面までの距離)は27.8mmを踏襲する必要があり、また、カメラの性能が著しく向上したことから、新たな機能を組み込む必要もありました。それはまさに、小さなボンネットの下にV8エンジンを組み込むような至難の業でした。そこで非常に精度の高いレンジファインダーの搭載と、1ミクロンの誤差もない各種の調整を両立させ、カメラの動作や優れた画像処理の要となる高性能なイメージプロセッサーを限られたスペースに組み込むための新たなコンセプトを開発することが必要でした。

コンピューターシミュレーションと最新のプリント基板の技術によって、限られたスペースを最大限に活用することができるようになり、ライカM (Typ 240)と比べて設計の最適化が実現できました。また、高密度電子システムのおかげで、多層PCB技術をライカM10に組み込み、必要なスペースを最小限に抑えることができました。昨今の技術の進歩により、電子部品が高度に小型化していることも、ライカM10のスリムボディを実現する一助となりました。

バヨネットの突出がわずかなライカM8は、レンズとレンジファインダーの高精度な組み合わせを実現するためにかなりの調整が求められました。今回もレンズマウントをさらに改良するために課題などはあったのでしょうか?

Henning Rafflenbeul そうですね。レンジファインダーの一連の透過性能をもった高精度な光学構造を全体的に見直す必要がありました。そこで、限られたスペースに合わせてレンジファインダーの光学軸とローラーレバーの構造を再設計したところ、全体的に調整能力が著しく向上しました。

© Sebastian Graf Leica M10

Christoph GredlerライカMシステムは、ライカの製品ラインアップの中でも中心的な製品なので、設計においても他の製品とは異なるアプローチが求められます。60年以上に渡り受け継がれてきた伝統に対する敬意と特別な配慮が必要になり、また、責任も伴います。ライカMの設計は、「改革」ではなく、「進化」であるべきなのです。

ライカM10は、M型フィルムカメラにあったフィルム巻戻しレバーの代わりにISOクリックダイヤルを搭載しています。ライカはなぜ、設定メニューよりも機械式ダイヤルを優先させたのでしょうか?

Jesko von OeynhausenライカM10では、カメラの操作にもライカMシステムの本来の良さを反映したいと考えていました。なぜならば、M型フィルムカメラを操作するプロセスは特別な味わいがあるからです。あらゆる機能を搭載した一眼レフシステムとは異なり、ライカMシステムを使うフォトグラファーは、決定的な瞬間をしっかり捉えるために、事前に絞りやシャッタースピード、感度などを設定しています。これが、デジタルカメラでありながらも機械的にISO感度を設定するようにした理由です。カメラの外観をM型フィルムカメラにより近づけるためですが、ダイヤルの位置を変更し、これにより操作性も高まりました。

Christoph GredlerライカM10のISOクリックダイヤルは、ライカM10の設計コンセプトを体現するもので、正確性と信頼性を実現した「最先端のエンジニアリング」です。設計においてM型フィルムカメラのボデイサイズに立ち返ることは、非常に重要なことでした。そこにパーツや機能を追加していくのですが、カメラのデザインや外観と全体的に調和するように非常に配慮しました。ISOクリックダイヤルの設計や位置調整などのディテール、レンジファインダーウィンドウの拡大やカメラのシンプルな操作性は、設計部門と製品マネジメント部門の密接な連携があったからこそ生み出せたものだといえるでしょう。また、ホットシュー部に押し込むサムレストやハンドグリップなどのアクセサリーも、カメラにマッチするようにデザインされました。

© Sebastian Graf Leica M10
(左から)プロダクトマネージャーのJesko von Oeynhausen、プロジェクトマネージャーのHenning Rafflenbeul、デザイナーのChristoph Gredlerとビジネスユニットフォト グローバルディレクターのStefan Daniel。写真:© Sebastian Graf

 

ISOクリックダイヤルの設計について、優れた操作性を実現しながら、意図しない操作を防ぐというように設計するのは困難だったのではないでしょうか。この点についてどのように解決されたのでしょうか?

Christoph GredlerISOクリックダイヤルの設計で課題になったのは、しっかりしたロックメカニズムを組み込むことでした。ダイヤルをカメラのトップカバー上にむき出しで配置しているので、戻り止めとロック機能に十分な固さを保持しながらも、操作はしやすいようにしなければなりませんでした。そこで、意図せずダイヤルが回ることを防ぐためにラチェットロック機構を採用し、ダイヤルをロックした状態でも戻り止めでISO感度を調整できるようにしました。

Jesko von Oeynhausenロックを解除する場合には、ISOクリックダイヤルを2本の指で引き上げるように設計しました。これにより、例えばカメラをストラップで首に吊り下げている時にカメラが服に引っかかったりしても、ロックが解除されなくなります。

ビューファインダー倍率がこれまでの0.68倍から0.73倍になりました。これは、M型フィルムカメラの要素を再現した点のひとつだと思います。その裏にある意図と、ライカM10の新しいビューファインダーとこれまでのものとの違いを教えてください。

Henning Rafflenbeul光学的な性能向上を図ると同時に、薄型化したボディサイズに合うようにするため、ファインダーはライカM10専用に開発しました。つまり、ライカM7などのこれまでのモデルのファインダーの光学設計を調整するのではなく、入射瞳と射出瞳の位置、さらに視界の見直しを行いました。まず、ライカM10の視界を約30%広げたことで、場面が全体的により把握しやすくなりました。ライカM10のアイレリーフ(ファインダー接眼部から目までの距離)も、ライカM (Typ 240)と比べて長くなりました。これにより、ビューファインダーの見やすさが向上したほか、撮影者が眼鏡をかけていてもビューファインダーを使用しやすくなり、0.73倍というファインダー倍率も導入できるようになりました。

© Sebastian Graf Leica M10

Jesko von Oeynhausenこの効果は非常に素晴らしいものだと思います。ライカM10は、ピント合わせがよりしやすくなったので、快適に、安心して撮影することができます。

ライカM (Typ 240)のセンサーには、入射光の角度に左右されることなく高画質を実現できる特殊なマイクロレンズが採用されていますが、これはライカM10のセンサーも同様ですか?

Henning RafflenbeulライカM10のセンサーも、Mレンズの光学性能に合わせて最適化されたマイクロレンズを採用しています。これにより、Mレンズのように非常にコンパクトな設計でも最高の描写性能を発揮できるようになりました。

Jesko von Oeynhausenフリンジや、周辺光量落ちなどの事象も、ライカM10のセンサーではこれまでと比べると発生しにくくなっています。

© Sebastian Graf Leica M10

ライカM10のセンサーの解像度はライカM(Typ 240)と同じで、また、画素ピッチもMシステムSシステム、ライカSL、ライカQの全機種で同じく6µmが採用されています。ライカがこれを現在のセンサー技術の中で最適な画素ピッチだと考える理由は何ですか?

Stefan Daniel:2400万画素のフルサイズフォーマットは、各画素ピッチの光感受性と解像度のバランスが非常に適切だと考えています。ライカM10は、高ISO感度でも卓越した画質で撮影することができます。もちろん、ノイズに関しては人によって感じ方が異なるでしょうが、私の場合、画像にノイズが出ることは気にせずに、ISO感度を最大6400のオートに設定しています。ライカM9の最大ISOが2500だったことを考えると、これはなかなかすごいことだと思います。ライカM10は、ISO 100~50000という幅広いISO感度域に対応しており、ISO 100の設定ではカメラのクリエイティブなポテンシャルをさらに引き出すことができます。また、開放値の明るいズミルックスなどのレンズでも、絞りを開けた状態でもさまざまな採光条件で使用することができ、レンズの特性を十分に活かすことができます。

ライカTLで採用されている外付け電子ビューファインダー用の新たなインターフェースは、ビューファインダーの解像度とフレームレートの向上を実現しました。ライカM10でオプションの電子ビューファインダーはどのような役割を担い、それ以外にもどのような点で純粋なレンジファインダーカメラの理想を追求しているのでしょうか?

Jesko von Oeynhausen電子ビューファインダー「ライカ ビゾフレックス」は、焦点距離が28mmより広角の場合や135mmなどの望遠時、またマクロ撮影時にライカM10に装着すると便利です。ビューファインダーが大きく極めてクリアなので、自然な色を再現できます。

なぜ、ライカM10では動画機能を搭載しなかったのでしょうか?

© Sebastian Graf Leica M10

Jesko von OeynhausenMフォトグラフィーの本質となる機能だけに絞り込んだことから、動画撮影機能は非搭載となりました。Mシステムの動画撮影機能は幅広い場面で活用でき、他のシステムでは実現できない、Mフォトグラフィーならではの映像を生み出すことができますので、動画撮影機能が搭載されたライカM (Typ 240)およびライカM-P (Typ 240)は、今後も生産していく予定です。

Henning RafflenbeulライカM10は、レンジファインダーフォトグラフィーの本質を追及するカメラを開発するという信念のもと誕生しました。完璧なるレンジファインダー式スチルカメラに必要な機能だけを追求して、操作や構造、設計の上で、その信念から妥協することにつながりかねない要素については、削ぎ落とすことにしたのです。

ライカM10にはデータ転送用のインターフェースがついていませんが、ワイヤレスでの画像転送に比重をおいているということでしょうか?

© Sebastian Graf Leica M10

Jesko von OeynhausenWLANインターフェースのおかげで、iPhoneに画像を直接保存したり、外出先でもその画像を共有できるようになりました。アプリをダウンロードすれば、ライブビュー画像のストリーミングを行ったり、iPhoneからシャッター操作を行うこともできるため、新しい用途や、普段とは違った視点の撮影の可能性が広がります。また、集合写真を撮影する場合や自撮りの時などにも活躍しますね。なお、テザー撮影には対応しておりませんので、テザー撮影用にはライカM-P (Typ 240)とマルチファンクションハンドグリップの組み合わせをお使いください。

ライカは、ライカM(Typ 240)で、これまでの用にカメラの名称に数字を組み合わせていた名称を使用するのをやめましたが、ライカM10では伝統的な番号方式に戻りました。これは元のネーミングに戻したということなのでしょうか?

Stefan Danielお客様から寄せられたフィードバックで、M型カメラの各モデルの区別の仕方について改善を求めるご要望が多くありました。「Typ」ナンバーでのネーミングが意図した形で浸透しなかったこともあり、ライカは数字を組み合わせる名称に戻すことにしました。

ライカM10」の詳細については、こちらのリンクをご参照ください。